懲戒とは

懲戒とは、企業秩序の維持を目として、職場秩序に従わない労働者に対して課する不利益処分であって、いわば企業内における秩序罰ともいえます。

 これによって、業務命令や職場規律の確立が間接的に強制されます。この懲戒処分の種類には、一般的に、謹慎、訓戒、戒告のような事実上の非難から、減給、出勤停止、懲戒解雇にいたる各種の不利益処分があります。

 

懲戒権の根拠

懲戒権の根拠はどこにあるのでしょうか。

労働契約は、使用者の指揮命令のもとに労務を提供するという特質をもっているので、この特質の当然の効果として使用者に懲戒権が認められていると考えられます。つまり、労働契約上の権利として使用者に懲戒権があると言えます。

 

次のような判例があります。

昭和26.1.8東京地裁決定 北辰精密工業仮処分申請事件

「企業において明らかに企業の秩序をみだし、企業目的遂行に害を及ぼす労働者の行為に対しては、使用者はたとえ準拠すべき明示の規範のない場合でも企業にとって必要やむを得ないときは、その行為に応じて適当な制裁を加え得ることは企業並びに労働契約の本質上当然であるから被申請人会社は右の固有の懲戒権を根拠として懲戒をなし得るものといわねばならぬ」

 

 

懲戒権の限界

企業秩序維持のためならなんでも懲戒処分にすることが出来るのかというと、懲戒権にも限界があります。

1.就業規則に掲げられた懲戒事由の解釈をめぐる基本的な考え方

 懲戒事由は、相当広範囲に記されているのが普通であるが、、なかでも「会社の名誉を毀損する行為があったとき」や事業場外での「刑事事件に該当する行為があったとき」という懲戒事由がある場合に、事業場外での労働者の私生活上の行為もこれによって懲戒することが許されるかどうかの問題がありますが、判例では「懲戒事由の規定に従ってそのまま広く解釈すべきでなく、懲戒は企業秩序の維持を目的とするものであるから、客観的に見て企業秩序の維持ないし生産性の向上と相いれない行為のみに限って懲戒事由を適用すべきである」という見解があります。

 

2.懲戒処分を行う場合の懲戒事由の存否の認定、情状の酌量、処分の決定に関すること

  これについては次のような判例があります。

昭和29.4.27広島高裁決定 帝国人絹事件

「使用者の自由裁量が認められるものではなく、使用者は客観的に妥当な適用をなすべき義務を負う」

判例の見解に従うと、「違背行為の軽重の度合いに応じて、懲戒処分も自ら軽重の差を設ける拘束を受け、同程度違背行為については、同程度の懲戒処分を行うべきである」ことになります。

 

情状酌量については就業規則上に明文の規定がなくても、行為者の動機、行為の態様、行為後の改悛の情などの情状は必ず配慮する必要があると考えられます。もちろん、この場合に違背行為の性質と行為者の職内容、あるいは職務上の地位との関係が考慮されることは当然です。

 

3.懲戒処分の手続き

  これについても判例があります。

昭和25.9.7東京地裁決定 理研発条鋼業事件

「懲戒処分の手続きに重大な違反があれば、懲戒処分の効力が否定される」

労働協約や就業規則に「懲戒は会社、組合同数の懲戒委員会の議を経てこれを行う」というような手続規定が設けられている場合に、懲戒委員会を開く手続きを踏まずに一方的に行った懲戒処分については、これを無効とする、とされています。

 

懲戒の種類

 懲戒処分の種類は、戒告、謹慎などの単なる事実行為から、減給、出勤停止、降職、懲戒解雇にいたるまでの不利益処分があります。労働基準法は、以上のうち減給の制限についてだけ制限規定を設けていますが、「減給以外の懲戒処分も法令や公序良俗に反しない限り禁止する趣旨ではない」(昭和22.9.13基発第17号)とされています。

 また懲戒処分の選択について、次のような判例があります。

昭和49.2.28最高裁第1小法廷判決 国労広島地本事件

「当該行為との対比において、甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであってはならないが、懲戒権者の処分選択が右のような限度を超えるものとして違法性を有しない限り、それは懲戒権者の裁量の範囲内にあるものとして、その効力を否定することはできないといわなくてはならない」

 

1.戒告または譴責(けんせき)

 懲戒処分の中では最も軽い処分で、一般的に始末書を取り、将来を戒めるものとされています。いずれも事実上の叱責にあたり、実質的な不利益処分にはなりません。

 軽い違背行為に対して行われる処分ですが、違背故意の反覆を防止するとともに、他の重い処分の警告的意味も含めて運用されることがあります。

 

2.減給

 懲戒としての減給は、いわゆる秩序罰としての罰金であって、欠勤その他の不就労に対する賃金カットとは異なり、労働者の賃金から制裁として一方的に減額します。

 減給については、労働基準法第91条で「減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期間における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と定められています。この規定に関して「一回の額とは懲戒事案1事案の額を指し、総額とは一賃金支払期間中に懲戒事由が二以上積み重なった場合の減給金額をいう。つまり、一回の懲戒事案については平均賃金の一日分の半額が最高額であること、そして、一賃金支払期間中に数事案以上の減給事項が積み重なった場合であっても、労働者の生活保障の観点から減給額の総額が賃金総額の10分の1を超えてはならないと規定したものだと解釈されている」(昭和23.9.20基収第1789号)

 したがって、一懲戒事案について月給の10分の1を超えて減給することが認められないことはもちろん、たとえ平均賃金一日分の半額ずつであっても、これを何ヶ月かにわたって減給することは、一懲戒事案の減給最高額を超過するので違法になります。

 なお、不都合行為によって会社に損害を与えた者に対する損害賠償の請求は、減給処分とは別に行うことが出来ます。

 

3.出勤停止

懲戒として、一定期間の出勤を停止し、その間の賃金の減収をもたらす不利益処分です。出勤停止処分の有効性は「制裁の原因たる事案が公序良俗に反しない限り禁止する趣旨ではない」(昭和22.9.13基発第17号)という行政解釈があります。

 また、出勤停止期間中の賃金が支払われない点については、「制裁としての出勤停止の当然の結果であって、労働基準法第91条にいう減給に該当しない」(昭和23.7.3基収第217号)という行政解釈があります。

 

4.降格

懲戒として、降格、降職を処し、結果的に賃金の減収をきたす不利益処分があります。懲戒処分としての降格、降職は職務自体を格下げする処分であるので、減給の制裁には該当しないとされています。これに関して次のような行政解釈があります。「交通事故を起こした自動車運転手を制裁として助手に格下げし、従って賃金も助手のそれに低下せしめたとしても、交通事故を起こしたことが運転手として不適格であるから助手に格下げするのであるならば、賃金の低下はその労働者の職務の変更に伴う当然の結果であるから労働基準法第91条の制裁規定に抵触するものではない」(昭和26.3.1基収第518号)。ただし、この行政解釈は従う場合に注意しなければならないことは、職務によって異なる賃金の基準が定められていることが必要であって、降格、公職といっても職務ごとに異なる賃金の水準が定められていない事業場の場合は、それによって、ただちに賃金低下ということにはなりません。

 

5.懲戒解雇

懲戒解雇は、労働者を解雇し、企業外に放逐する処分で、懲戒処分の中で最も重い処分です。そこで、判例の多くは「懲戒解雇に処すべき場合には制限がある」として「懲戒解雇は従業員を企業から排除し反省の機会を絶対に奪い、かつその者に精神的経済的に重大な不利益を与える処分である」とし、「単に就業規則所定の懲戒事由に該当する事実があるだけでは足りず、規則違背行為がその時期、態様、動機または結果等から総合的に判断して、懲戒解雇に処することが社会通念上肯認される程度に重大かつ悪質なものでなければならない」と判断しています。

 また、就業規則の作成義務を負わない常時10人未満の労働者を使用している事業場において、就業規則を作成していない場合の懲戒解雇については判例で、「使用者と労働者の間に、懲戒解雇事由につき法律あるいは就業規則、労働協約等による具体的定めが存しなければ、使用者は、たとえ労働者に企業秩序違反の行為があったとしても、その労働者を懲戒解雇することはできないというべきである」(昭和61.5.29東京高裁判決 洋書センター事件)

なお、懲戒解雇も、解雇の一態様であるので、労働基準法や労働契約法の解雇に関する規定が適用されるので、懲戒解雇として予告手当も支払わずに即時解雇するときは、労働基準監督署の解雇予告除外認定を受ける必要があります。 

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