1.人事権による降格人事

 営業所長を営業所の成績不振を理由に営業社員に降格する場合や、勤務成績不良を理由として部長を一般職へ降格するような場合に、一定の役職を解く降格については、裁判例は、就業規則に根拠規定がなくても人事権の行使として裁量的判断により可能である、としています。(課長からの降格では平成7.12.4東京地裁判決バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件や店長からの降格では平成11.10.29東京地裁判決上州屋事件)

 これら裁判例の人事権とは、労働者を企業組織の中で位置付け、その役割を定める権限で、職業能力の発展に応じて職務やポストに配置していく長期雇用システムにおいては、労働契約上当然に使用者の権限として予定されています。また、労働契約内での降格であっても、相当の理由の無い降格で、賃金が相当程度下がるなど本人の不利益も大きい場合には、人事権の濫用となり得ます。

2.職能資格の引き下げとしての降格

 資格制度における資格や等級を引き下げることは、資格制度を定めた規則や規程において、一旦達成された職務遂行能力の資格や等級も見直しにより引き下げがあることを明記しなければなりません。つまり、資格や等級の引き下げは労働者との合意により契約内容を変更する場合以外は、就業規則等労働契約上明確な根拠がなければできません。また、契約上の根拠がある場合にも、著しく不合理な評価によって大きな不利益を与える降格の場合は人事権の濫用となり得ます。

3.降格人事の法的視点

降格については職位(役職)を引き下げるものと、職能資格制度下で資格を低下させるものがあります。さらに具体的な降格の方法には懲戒処分による場合と人事上の措置としての異動(配置転換)による場合があります。

 配置転換の場合、就業規則等の根拠規定で「業務上の必要があるときは配置転換、職種変更を命ずる」旨の規定があれば可能です。それでは、職位の引き下げとしての降格は無制限に行えるのでしょうか。

 

裁判例では、『 そもそも、一般に使用者は労働者を企業組織の中で位置付け、その役割を定める権限(人事権)があることが予定されている。したがって、人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に委ねられる事項であるから社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められない限り、違法であるとは言われない。

 もっとも、その人事権の行使は労働者の人格権を侵害する等の違法・不当な目的・態様をもってなされてはならないというだけでなく、経営者に委ねられた裁量判断を逸脱しているかどうかについては、

1.使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度

2.労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適正を有するかどうか

3.労働者の受ける不利益の性質・程度

4.当該企業における昇進・降格の運用状況

等の諸点が考慮されるべきである。 』

(バンク・オブ・アメリカイリノイ事件 東京地裁 平成7年12月4日)

 

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