労働時間 7つの落とし穴

1.朝礼、掃除、準備、片付け時間も労働時間

 

 

労働時間とはどんな時間でしょうか?

労働基準法には、労働時間の具体的な定義がありませんが、次の最高裁の判例があります。

三菱重工業長崎造船所事件( 最一小判平12.3.9)

労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、その行為を所定労働時間外に行うものとされている場合でも、その行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できる。

 

つまり、労働者が労働に従事する場合、一般に使用者の指揮命令のもとに労働するものであるから、労働するために、使用者の指揮命令下におかれる時間は、現実に労働することがなくても労働時間となります。手待時間(待機時間)であっても、仕事があればいつでも取りかかるための準備時間であるため労働時間とされます。

 

2.仕事をしない居残りや勝手な休日出勤も労働時間になり得る

 

 

 

(1)時間外労働

時間外労働とは、原則として法定労働時間で定められている1週間40時間、1日8時間(例外として変形労働時間や一定の特例業種があります)を超えて労働させることができませんが、災害などの通常予見され得ない臨時の必要がある場合、公務のために臨時の必要がある場合、業務の繁忙の場合等に関して、労働基準法では、一定の要件のもとにこの法定労働時間の原則を超えて労働者を働かせることができます。

 

 労使協定(36協定)があれば時間外労働をさせることができるかというと、会社が一方的に命じることはできません。まず、会社から労働者に時間外労働の申し出があり、つぎに、その申し出に対して労働者からの承諾があって、はじめて時間外労働ができるのです。もちろん、使用者の許可なく勝手に居残っていたり、休日に出勤したりした場合は業務命令違反になります。

 

 また、労働契約や就業規則で時間外労働の義務を定めている場合で、その規定の内容が合理的であるときは、命令に従うべき義務があるとする考え方が妥当であるので、この命令を拒否すると、業務命令違反になることも考えられます。ただし、労働者に時間外・休日労働を行わない止むを得ない事由があるときには、その命令は権利濫用になり、とりわけ休日労働についての業務上の必要性は慎重に判断するべきです。

 

(2)休日労働

そもそも休日労働とは何でしょうか。

労働基準法には次のように定めています。

 

労働基準法

(休日)

第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

② 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

 

労働基準法第35条では「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない」と休日を定めており、これを法定休日といいます。

法定休日は、必ずしも日曜日や国民の祝日であるとは限りません。

 

法定休日とは、1週間の間の1休日をいい、この法定休日に労働すると法定休日労働になり休日割増賃金が発生します。

 

(3)深夜労働

 深夜労働とは22時(午後10時)から翌日5時までの間に労働した時間をいいます。この時間中に休憩時間があれば、その休憩時間中は無給でもよいのです。

 

(4)時間外労働、休日労働、深夜労働の事例

①所定労働時間が7時間30分の場合

1日の所定労働時間が7時間30分であって、実際の労働時間が8時間00分である場合は、7時間30分を超えて8時間00分までの30分間の労働時間は、原則として割増賃金を支払う必要はありませんが、この30分間の労働した時間に対する賃金は支払う必要があります。労働基準法では、原則として1日の労働時間が8時間を超えた場合に割増賃金を支払うことを定めているので、それに満たない時間には割増賃金を支払わなくてもいいのです。

 

②遅刻した者が所定労働時間を超えて労働した場合

遅刻をした者を、遅刻した時間だけ、所定の終業時刻以後も労働させても、それは労働基準法上の時間外労働ではないので、割増賃金を支払う必要はありません。原則として1日の労働時間が8時間を超えた場合には割増賃金を支払う必要があります。

 

③労働者が自主的に居残っていたり、休日に出勤したりした場合

時間外労働は、まず、使用者から労働者に時間外労働の申し出があり、つぎに、それに対して労働者からの承諾があって初めて時間外労働ができるのです。

使用者の許可なく勝手に居残っていたり、休日に出勤したときに、業務災害発生したり、通勤災害が発生すると会社の安全管理が問われますので、勝手な居残りや休日出勤は禁止するべきです。労働者が使用者の指示がなく残業や休日出勤を行っていることを使用者が知りながら、これを中止せずに放置していくと、残業や休日出勤を容認したことになり、この労働者の成果を受け入れている場合は、これを承認しているとされるので、使用者責任を負わなければなりません。

使用者からの申し出がないのに残業や休日出勤している者は、帰宅させなければなりません。また、業務命令違反として懲戒処分の対象にすることも考えられます。

 

 ④講習会等に参加する場合

 時間外労働ということの前に、労働時間になるかどうかを考えると、「労働時間とは、労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」なので、使用者の指示もなく、その管理下からも離れ、労働者が真に自発的に、自主的に参加するのであれば、業務に直接関連するものであっても労働時間とは考えられません。しかし、労働者の自主参加としていても、不参加者に不利益を課すことがあった場合には、使用者の指示があったものと認められるので、これは労働時間となります。当然、法定労働時間

を超えた時間には割増賃金を支払わなければなりません。

 

3. 会社の規模や業種を問わず、労使協定と労働契約がなければ時間外、休日労働できない

 

 

 

原則として、1週40時間、1日8時間を超えて労働させることはできません。

しかし、労働基準法第36条では、使用者は労働者代表と書面による協定をし、これを労働基準監督署長に届け出て、従業員に周知すると、1週間40時間、1日8時間という法定労働時間を超えて、その通達、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年労働省告示第154号)で定める時間の延長ができます。

 

「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年労働省告示第154号) の一部略

期間 右以外の労働時間 対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制

1か月 45時間 42時間

3か月 120時間 110時間

1年間 360時間 320時間

 

さらに、延長して労働させる必要があるときには、「特別条項付き協定」を締結します。

36協定に特別条項を締結すれば限度時間を超えて、時間外労働をさせることができます。この特別条項は職種による限定はありません。

 

 【特別条項付き協定の例】

 

一定期間についての延長時間は1箇月間40時間(注1)とする。ただし、特別の事情(注2)が生じたときは労使の協議(注3)を経て、1箇月60時間(注4)まで延長することができる。

 

(注1)限度時間以内の時間であること。

(注2)限度時間を超えて労働を必要とする特別の事情で臨時的なものに限られる。

(注3)労使間で定める手続きを特定するものであり、通告などでもよい。

(注4)協定上限時間として必要に応じて定めること。

この特別条項は、前半部分で限度時間内の時間を定めて、ただし書き以下の部分で、例外として限度時間を超えて時間外をすることを定めます。この場合の延長時間については特に規定はありません。

 

4. 日々の残業時間を一定時間の単位で切り捨てることはできない

 

 

 

(1)割増賃金の計算方法

時間単価(※1) × 時間外、深夜、休日勤務時間 × 割増率(※2)

 

(※1)時間単価の算出方法(月給者の場合)

(基本給+各種手当(※3))÷1か月平均所定労働時間

(※2)割増率

労働日、勤務時間 要件 最低限の割増率

通常日(法定休日ではない日)の時間外 1週間40時間超

1日8時間超 2割5分=25%

通常日の深夜勤務 22時~翌日5時 2割5分=25%

法定休日 7連続労働日目 3割5分=35%

法定休日の深夜勤務 法定休日の0時~5時および22時~24時 2割5分+3割5分=6割=60%

法定休日は、それ自体が時間外勤務のため法定休日の時間外労働はありません。

深夜勤務は5割増とは限らない(8時間超勤務と深夜勤務が重なると5割増)

 

(※3)各種手当に算入しなくても良い手当(これら以外は参入)

・家族手当

・通勤手当

・別居手当

・子女教育手当

・住宅手当

・臨時に支払われた賃金

・一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

(2)割増賃金計算における端数処理

「1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは、労働基準法第24条及び第37条違反として取り扱わない」、という通達(昭和63年3月14日基発150号)があります。逆にいうと

1日ごとの時間を15分単位や30分単位で切り捨てることは法律違反

 

5. 基本給に残業代が含まれているといっても、何時間分で何円かがわからなければ残業代ではない

 

 

「当社の基本給には残業代が含まれている」という会社がありますが、これでは残業代を支払ったことにはなりません。

 

何時間分の残業があり、その残業代は何円なのかが明確になっていなければ、残業代とは認められません。

 

残業代と認められないとどうなるでしょうか?

(例)

・基本給300,000円

・月間所定労働時間168時間(1日8時間×21日)

・残業30時間

 

計算式=(300,000円÷168時間)×1.25(割増率)×30時間

     =66,900円(計算途中は1円単位に切り上げ)

 

追加で66,900円を支払わなければなりません。

 

 

6.課長、部長や店長だからといって管理監督者とは限らない

 

 

 

管理監督者は法律上の労働時間等の制限を受けませんが、管理監督者に当てはまるかどうかは役職名ではなく、その社員の職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇を踏まえて実態により判断します。

労働基準法

第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者

二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

(昭六〇法四五・平五法七九・平一〇法一一二・一部改正)

(1)管理監督者の判断基準

・経営者と一体的な立場で仕事をしている

 経営者と一体的な立場で仕事をするためには、経営者から管理監督、指揮命令にかかる一定の権限を委ねられている必要があります。

「部長」「課長」といった肩書きであっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事案について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するに過ぎなかったりする場合は管理監督者には含まれません。また、営業上の理由から、セールス担当社員全員に「課長」といった肩書きをつけていても、権限と実態がなければ管理監督者とはいえません。

・出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない

 管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応を求められることがあり、また労務管理においても一般の従業員と異なる立場に立つ必要があるため、勤務時間の制限がなく、出退勤時間も自らの裁量に任されていることが必要です。遅刻や早退をしたら、給料や賞与が減らされるような場合は管理監督者とはいえません

・その地位にふさわしい待遇がなされている

 管理監督者はその職務の重要性から、地位、給料その他の待遇において一般社員と比較して相応の待遇がなされていることが必要です。

以上の要件を総合的に判断します。

 

(2)管理監督者であると認められると

適用無し 労働時間、休憩、休日

適用あり 深夜勤務(割増部分のみ)、有給休暇

 

7. 営業職や建設業の現場監督は直行直帰が多くても、事業場外みなし労働にはならない

 

 

 

事業場外のみなし労働時間とは、外交セールス員や記事の取材等のように事業場外で業務に従事し、かつ使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定するのが困難な業務を対象とした、ある一定時間労働したとみなす労働時間の制度です。

労働基準法では次の通りに定められています。

 

労働基準法

第三十八条の二 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

② 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。

③ 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

(昭六二法九九・追加、平五法七九・平一〇法一一二・平一一法一六〇・一部改正)

 

事業場外のみなし労働時間が適用されれば、事業場外でその日の仕事が早く終わろうが、遅くまでかかろうが、定められた労働時間の労働があったとみなされ、時間外労働が発生しないのです。

 

しかし、現在では、事業場外みなし労働時間が適用される例はほとんどないそうです。先日、労働基準監督官との話のついでに、事業場外みなし労働時間の適用について聞いたところ、「この制度は飛び込みセールスマンを対象と考えられていて、制度設立当時には携帯電話のような通信機器がない時代だったので、労働時間の管理が困難でした。しかし、現代のように飛び込みセールスマンが携帯電話を持ち、常時会社の指示を仰ぎ、連絡を取り合える状態なので労働時間の管理が困難ということではない」ので、事業場外みなし労働時間は適用されづらいのです。